あ、だめだ、と小さく呟いた声が聞こえたので俺は一気に機嫌が悪くなってそれを察して困ったような苦笑いを浮かべる奴とふたりして眉を寄せた。違うところといえば奴の場合それが純真そのものみたいな酷く哀しそうな顔になることで、俺と同じように表情筋を働かせているのに神様は不公平だと思う。
「ごめん」
「俺なんも云ってねー」
「それはそうだけど」
「否定形嫌いだ」
「ごめん」
もう一度消え入りそうなこえでごめんね、と呟いた。だめだ、きえる、ごめん、統べてマイナス。不安になるのは俺の中身が足りないからなのしれない。引かれてマイナス、コイツだいなり俺。ニッポンの神様はオトコに余分な部分をオンナに足りない部分を造ってつがわせて埋め合わせたというらしいけど生憎俺は余分な部分を抱えて足りないらしい。易々と俺を越えていくアイツがうらめしくてうらやましい、そいつが認めたくなくてムツキの手元から書きかけの五線譜を奪い取った。マイナスいち。
「返して」
「断る」
「返せよ」
ノー。
業を煮やして伸ばされた本気じゃない手をかいくぐって無防備な黒い耳を引っ張るとムツキは顔を歪めた。マイナスに。俺のせいなんだから当たり前だよな。
「い、たい」
歪んだ唇に噛み付いてマイナスさん。こいつマイナスなんかイコール俺、ホントに下らない。


2005031600:57
HUGH × MUTSUKI