敗亡志願




何かにつけて火澄は、自分の死を仄めかす。散々そんな人間達と付き合っていると、感性とかいうものは変化していくらしい。物騒だとか何だとかそれ以前に、またかという呆れにも似た感情が過ぎる。良くない傾向だ。
「何度同じことを云わせる気だ。俺は兄貴には負けない」
「せやかて、口だけじゃどうにもならへん」
『お前は俺を殺す。』
裏返せば、火澄はそれを甘受している。
コイツがどの程度抵抗するかを差し引いても、多分俺は火澄を殺せるだろう。運命とやらはともかく、例えば今ナイフでも包丁でもカッターでさえ突き付ければ。食事に毒が混ざっていれば。大層な薬品を用意しなくてもじゃがいもでも人は死ねる。簡単だ。例えば息を止めてしまえば?火澄の首に手を掛ける。見かけよ り細い。食ってないな、まあ殺されるって思ってる奴なら当たり前か。首を引き寄せて口付けると金色の目が揺れた。一度だけ震えた肩は、死を覚悟してなお本能的に嗅ぎ取る恐怖だろうか。
「…ん…ふっ…」
舌を差し込み呼気を奪うと、苦しげにコイツは喘いだ。呼吸なんて、生きていくための呼吸なんてさせない。酸素を求めた頬が生理的に紅潮する。涙さえ滲む金を淡い嗜虐の目で眺めながら、火澄の首の僅かに突出したそこを押す。すぐに顔を歪めたが、それさえも抵抗しなかった。
火澄の命若しくはそれに通じる意志決定権を握っているのかと思うと何やら酷く気分が良い。こうまで自分は倒錯的だったのかと我ながら苦笑した。今此処でこうやってコイツを殺したら、兄貴の意図は狂うだろうか。それとも、それさえ予定調和なのだろうか。どちらでもいい。コイツは、火澄だけは奪わせない。奪え ない、兄貴が俺に与えた運命だ。俺は火澄の生殺与奪の力を持っている。全てを奪われた空っぽの手元に残ったのはこれだけ。俺の意志を享受する、火澄の命ひとつ。
20050706 12:47
Ayumu × Hizumi 個人的歩火。
ちょっと歩さんがおかしいです。
台詞みっつしかない…!

ていうか初あるひがこんなんですみませんでも初螺旋じゃないのよ。