黄昏都市


ふらりとあらわれては消えていく、元々食えない奴とは思っていたが(そしてそれは複雑な素性もあるのではないかと、何とはなしにイブ公から聞いていた。そりゃこっちの台詞だ)その『複雑な素性』が一旦の終結を見せてからというもの、寧ろそれは悪化の一途を辿っている気がしてならない。こちらがそれこそ、件の人物とのグローバルな鬼ごっこに明け暮れる旧友のような羽目にならなかったから未だしも被害は少ない筈だが。お久しぶりですとにこりと笑って見せる、ふてぶてしいまでの礼儀正さ、とか。
ウルフ先輩はお元気でしたか、ああ当たり前ですよね、体力だけが取り柄だってご自分でおっしゃってましたもんねと嫌味なんだか本音なんだか若しくは両方かもしれない巧妙に包まれた棘のある言葉、とか。目とか。髪とか。久々に見た懐かしい姿に少し安堵した。
こうやって何処かの喫茶店の隅或いは街角で会ってはまたぱたりと消える、その度に変わっていくものと変わらないものを見つけて安心して少し哀しい。
「なんですか、ヒトの顔じろじろ見て、なんか付いてます?」
「いーや」
「もしかして感傷に浸ったりしてるんじゃないですよね?」
「御名答」
「柄にもない」
「一年振りの逢瀬だろ」
「…最悪だ」
視線を廻らせ息をつくコイツを見て、変わったな、と思う。芸風が変わったのか、それともこいつが本性なのか。
俺のジョーク(それにしてはタチが悪いですよ、と奴は慇懃かつ横柄、一見成り立たない矛盾した態度を見事なまでに同居させ呟いた)は半分はジョーク、だから半分は本気だ。
「この後の予定は?」
「花に水を」
「俺に愛を」
「帰ってください」
「ここァお前の家か」
「会計なら僕がしますから」
「結構だ」
「どうせワトソン先輩にたかるんでしょう」
「またワトソンかよ」
この言葉を臨界点に、トムが席を立った。
地雷を踏んだかもしれない。律義に伝票を持ってレジに向かう背中を追う。華奢な背中は、記憶にある通りだった。外に出ると、既に夕暮れの色が濃い。
振り仰いだオレンヂの街に、むせ返るような熱気が染みている。
「…で、何処に行くんでしたっけ?」
「は?」
「僕の気が変わらないうちに」



20050704 21:11 七夕
Wolfe × Thomas

七夕にするつもりはなく書き始めたのになんだか「一年振りでおっひさー」な話が七夕に完成した。
タイムリィ。